死にゆく花
 
絶え間なく降り積もった
春の雪 埋(うず)もれながら
 
ああ 痛みさえ伴わずに
記憶の糸が また 途切れてゆく
 
あふれる声に耳を傾けても
闇夜は影を潤して
花冷えの中で 交わした約束も
やがては溶けて 幻になる
 
爪弾いて うたうくちびる
ふれあった指先 細い音色
 
そう この場所さえ いつの日にか
なくしてしまうと わかっているなら
 
せめてもの今 甘く薫る刹那
すべてを果てに刻み込んで
つないだその手の ちいさな震えさえ
呼吸をするように 愛しむ
 
途切れた糸のその先は 私を縛りつづけていた
この 囚われて腫れあがった言葉で
今度は あなたを傷つけてしまうの?
 
過去を彩る私の花たちが
あなたの中に咲かなくとも
あの時ふたりは 確かに此処にいた
それだけ それだけが真実
 
然れば散り際 枯れゆくその前に
あなたの硝子の器を
やさしい香りで満たすための生命
とめどない想いで 開け 花よ
 
written in 2012.08